高齢者や障害者、児童を虐待から守るための法律が「虐待防止法」です。
高齢者虐待防止法、障害者虐待防止法、児童虐待防止法、と3つがそれぞれ定められています。
介護福祉士国家試験に出題されるのは「高齢者」と「障害者」の虐待防止法です。
児童虐待防止法は出題されたことはありません(過去10年分)が、一応、触れています。
虐待の種類
虐待には5つの種類があります。
身体的虐待・性的虐待・心理的虐待・経済的虐待・ネグレクト(介護放棄・育児放棄)の5つです。
身体的虐待
身体的虐待はいわゆる暴力行為のことです。殴ったり蹴ったり叩いたりつねったり、無理やり口に食べ物を入れたり、身体拘束・抑制することを指します。
性的虐待
性的虐待はわいせつな行為のことです。性的な行為をしたりさせたりすることを指します。
レイプであったり、性器を触ったり触らせたり、といった行いです。
心理的虐待
心理的虐待は言葉や態度によって精神的な苦痛を与える行為のことです。
脅し・暴言・屈辱・差別発言・無視・いやがらせなどです。怒鳴ったり、ののしったりすることも含まれます。
ネグレクト(介護放棄・育児放棄)
世話を放棄することです。排泄のケアをしなかったり、水分や食事を与えなかったりですね。
経済的虐待
相手の金銭を合意なしに勝手に使用したり、年金や預貯金を搾取したり、必要な金銭を渡さなかったり…金に関する虐待が経済的虐待です。
高齢者虐待防止法
- 成立 … 2005年
- 虐待の種類 … 身体的・性的・心理的・ネグレクト・経済的 … の5種類
- 虐待の対象者 … 65歳以上の高齢者
- 虐待の主体者 … 養護者・施設従事者
- 早期発見の義務 … 関係者は早期発見に努めなければなりません
- 通報義務 … 虐待を発見したら市町村へ通報する義務があります
障害者虐待防止法
- 成立 … 2011年
- 虐待の種類 … 身体的・性的・心理的・ネグレクト・経済的 … の5種類
- 虐待の主体者 … 養護者・施設従事者・使用者
- 早期発見の義務 … 関係者は早期発見に努めなければなりません
- 通報義務 … 虐待を発見したら市町村へ通報する義務があります
児童虐待防止法
- 成立 … 2000年
- 虐待の種類 … 身体的・性的・心理的・ネグレクト … の4種類
- 虐待の主体者 … 養護者・施設従事者・使用者
- 早期発見の義務 … 関係者は早期発見に努めなければなりません
- 通報義務 … 虐待を発見したら市町村や都道府県の福祉事務所へ通報する義務があります
※児童虐待防止法は出題されたことはありません(過去10年分)が、一応、触れています。
過去問
第35回 問16(社会の理解)
「高齢者虐待防止法」に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
(注)「高齢者虐待防止法」とは、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」のことである。
- 虐待が起こる場として、家庭、施設、病院の3つが規定されている。
- 対象は、介護保険制度の施設サービス利用者とされている。
- 徘徊(はいかい)しないように車いすに固定することは、身体拘束には当たらない。
- 虐待を発見した養介護施設従事者には、通報する義務がある。
- 虐待の認定は、警察署長が行う。
正解は4です。
<解説>
1 … 虐待が起こる場として、家庭、施設、病院の3つが規定されている。
→ 高齢者虐待防止法では「家庭での養護者」による「家庭内虐待」と、「施設での施設従事者」による「施設内虐待」の2つにわけられています。
2 … 対象は、介護保険制度の施設サービス利用者とされている。
→ 65歳以上の高齢者 が対象です。
3 … 徘徊(はいかい)しないように車いすに固定することは、身体拘束には当たらない。
→ もちろん、身体拘束に当たります。
4 … 虐待を発見した養介護施設従事者には、通報する義務がある。
→ これが正解です。市町村に通報する義務があります。
5 … 虐待の認定は、警察署長が行う。
→ 警察署長ではなく市町村が虐待認定を行います。
第35回 問51(障害の理解)
「障害者虐待防止法」における、障害者に対する著しい暴言が当てはまる障害者虐待の類型として、最も適切なものを1つ選びなさい。
(注)「障害者虐待防止法」とは、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」のことである。
- 身体的虐待
- 放棄・放置
- 性的虐待
- 心理的虐待
- 経済的虐待
正解は4です。
2… 放棄・放置はネグレクト とも言います。
第34回 問2(人間の尊厳と自立)
Aさん(80歳、女性、要介護1)は、筋力や理解力の低下がみられ、訪問介護(ホームヘルプサービス)を利用している。訪問介護員(ホームヘルパー)がいない時間帯は、同居している長男(53歳、無職)に頼って生活をしている。長男はAさんの年金で生計を立てていて、ほとんど外出しないで家にいる。
ある時、Aさんは訪問介護員(ホームヘルパー)に、「長男は暴力がひどくてね。この間も殴られて、とても怖かった。長男には言わないでね。あとで何をされるかわからないから」と話した。訪問介護員(ホームヘルパー)は、Aさんのからだに複数のあざがあることを確認した。
訪問介護員(ホームヘルパー)の対応に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
- 長男の虐待を疑い、上司に報告し、市町村に通報する。
- 長男の仕事が見つかるようにハローワークを紹介する。
- Aさんの気持ちを大切にして何もしない。
- すぐに長男を別室に呼び、事実を確認する。
- 長男の暴力に気づいたかを近所の人に確認する。
正解は1です。
高齢者虐待防止法では虐待発見後、市町村への通報が義務付けられています。
<解説>
2 … 長男の仕事が見つかるようにハローワークを紹介する。
→ 長男の仕事に関わることと、Aさんへの虐待は何の関係もありません。
3 … Aさんの気持ちを大切にして何もしない。
→ 「何もしない」ではいけません。虐待と思われる事柄は市町村へ報告する義務があります。
4 … すぐに長男を別室に呼び、事実を確認する。
→ 事実確認は大事ですが、その場ですぐに長男を問いただすのは最善とは言えません。
また、長男が別室ですぐに虐待を認めるとは考えにくいです。
5 … 長男の暴力に気づいたかを近所の人に確認する。
→ 「虐待」という極めてデリケートでプライベートな事柄を、安易に近所の人に確認するのは、 介護福祉士の守秘義務という観点からも芳しくありません。また、近所で噂となることで、長男をより刺激し虐待が悪化してしまう可能性もあります。
第33回 問16(社会の理解)
「高齢者虐待防止法」に関する次の記述のうち、適切なものを1つ選びなさい。
(注)「高齢者虐待防止法」とは、「高齢者虐待防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」のことである。
- 養護者及び養介護施設従事者等が行う行為が対象である。
- 虐待の類型は、身体的虐待、心理的虐待、経済的虐待の三つである。
- 虐待を発見した場合は、施設長に通報しなければならない。
- 立ち入り調査を行うときは、警察官の同行が義務づけられている。
- 通報には、虐待の事実確認が必要である。
正解は1です。
家庭内の養護者による家庭内虐待と、施設内の施設従事者による施設内虐待が規定されています。
<解説>
2…虐待の類型は、身体的虐待、心理的虐待、経済的虐待の三つである。
→ 虐待の種類は身体的虐待、心理的虐待、経済的虐待、性的虐待、ネグレクト(放棄・放置)の5つです。
3 … 虐待を発見した場合は、施設長に通報しなければならない。
→ 虐待を発見した場合は、市町村に通報しなければなりません。(義務)
4 … 立ち入り調査を行うときは、警察官の同行が義務づけられている。
→ 警察官の同行は義務ではありません。
5 … 通報には、虐待の事実確認が必要である。
→ 虐待の事実確認は必要ではありません。虐待と思われる高齢者を発見した段階で市町村に通報しなければなりません。
第33回 問93(障害の理解)
「障害者虐待防止法」の心理的虐待に関する次の記述のうち、適切なものを1つ選びなさい。
(注)「障害者虐待防止法」とは、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」のことである。
- 身体に外傷が生じるおそれのある暴行を加えること。
- わいせつな行為をすること。
- 著しい暴言、または著しく拒絶的な対応を行うこと。
- 衰弱させるような著しい減食、または長時間の放置を行うこと。
- 財産を不当に処分すること。
正解は3です。
<解説>
1 … 身体に外傷が生じるおそれのある暴行を加えること。
→ 身体的虐待です
2 … わいせつな行為をすること。
→ 性的虐待です。
4 … 衰弱させるような著しい減食、または長時間の放置を行うこと。
→ ネグレクト(放置・放棄)です。
5 … 財産を不当に処分すること。
→ 経済的虐待です。
第32回 問70(発達と老化の理解)
高齢者の年齢規定に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
(注)「高齢者虐待防止法」とは、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」のことである。
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律では、高年齢者を75歳以上としている。
- 「高齢者虐待防止法」では、高齢者を65歳以上としている。
- 高齢者の医療の確保に関する法律では、後期高齢者を65歳以上としている。
- 道路交通法では、免許証の更新の特例がある高齢運転者を60歳以上としている。
- 老人福祉法では、高齢者を55歳以上としている
正解は2です。
<解説>
1 … 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律では、高年齢者を75歳以上としている。
→ 55歳以上です。
3 … 高齢者の医療の確保に関する法律では、後期高齢者を65歳以上としている。
→ 後期高齢者は75歳以上です。
4 … 道路交通法では、免許証の更新の特例がある高齢運転者を60歳以上としている。
→ 70歳以上の方は免許証の更新の特例があり、高齢者講習が義務となります。
5 … 老人福祉法では、高齢者を55歳以上としている
→ 65歳以上です。
第27回 問73(介護の基本)
地域で高齢者虐待防止ネットワーク構築の中心になる機関として、最も適切なものを1つ選びなさい。
- 福祉事務所
- 老人福祉施設
- 民生委員協議会
- 警察署
- 地域包括支援センター
正解は5です。
地域包括支援センター … 超!重要用語です!
地域包括支援センターはその地域に住む高齢者が住み慣れた地域で最後まで自分らしく人生を全うできるように、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステム…地域包括ケアシステムの拠点 です。
第26回 問16(社会の理解)
「障害者虐待防止法」に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
- 対象となる虐待の範囲は、身体的虐待、心理的虐待及び性的虐待の3種類とされている。
- 市町村は、虐待に対応するために地域活動支援センターを設置することが義務付けられている。
- 家族による虐待に対しては、市町村が通報を受理して、身体障害者更生相談所または知的障害者更生相談所が対応することとされている。
- 施設サービスでの従事者による虐待は対象となるが、障害者の雇用主による虐待は対象外とされている。
- 医療機関の管理者は、医療機関を利用する障害者に対する虐待を防止するために必要な措置を講ずることとされている。
正解は5です。
<解説>
1 … 対象となる虐待の範囲は、身体的虐待、心理的虐待及び性的虐待の3種類とされている。
→ 身体的虐待・心理的虐待・性的虐待・経済的虐待・ネグレクト(放棄・放置)の5つです。
2 … 市町村は、虐待に対応するために地域活動支援センターを設置することが義務付けられている。
→ 虐待対応のため設置が義務付けられているのは「障害者虐待防止センター」です。
地域活動支援センター 重要用語です。
地域活動支援センターは「障害者総合支援法」の3つのサービス領域 ①介護給付 ②訓練等給付 ③地域生活支援事業 の ③地域生活支援事業のサービスの1つです。
地域活動支援センターは障害者が創作的活動・生産活動する機会を提供し、社会との交流を図る施設です。
3 … 家族による虐待に対しては、市町村が通報を受理して、身体障害者更生相談所または知的障害者更生相談所が対応することとされている。
→ 市町村にある「障害者虐待防止センター」が通報を受理し、市町村・都道府県・警察などが状況に応じて対応します。
4 … 施設サービスでの従事者による虐待は対象となるが、障害者の雇用主による虐待は対象外とされている。
→ 障害者の雇用主=使用者 も虐待の対象です。